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『誰がアパレルを殺すのか』を読んだ感想

      2018/03/11

本書の細かい内容には触れていません。

内容のサマリー

雑に概要してみると…

アパレルの市場規模がここ20年数年で3分の2にまで縮小している。
百貨店や大手アパレル企業は苦戦を強いられている。
その原因はいったい何だったのか?
一方で、この不遇の時代においても調子の良い新興企業の台頭。
何が明暗を分けたのか?
これからのアパレル業界を生き抜くためのヒントになるかもしれない一冊。
痛みに耐えて、顔晴ろう!ニッポン!

って感じでしょうか。

アパレルは誰かに殺されているのか?

服が売れない、アパレル業界がヤバいと叫ばれてます。

なるほど、市場規模が劇的に縮小しているのか?

アパレルサプライチェーン研究会という官民合同でやってる不思議な研究会の資料を見てみると…

たとえば、この資料を見てみると、たしかに縮小していますね。

アパレルサプライチェーン研究会の報告書によれば…

国内の衣料品市場規模は、1990年に約15兆円であったが、2010年には約10兆円にまで縮小している。
他方、同時期の国内生産と輸入を合わせた国内供給量は、約20億点から約40億点へと倍増した。したがって単純に計算すれば、国内の供給単価は、20年の間に三分の一に下がったことになる。
また、総務省の家計調査によれば、20年間で各家計の衣料品購入単価は6割弱までにしか下がっていないことから、市場に供給されたが消費されていないもの
も相当数増加しているのではないかと推測される。

たしかに、3分の2となかなかインパクトのある衰退を見せつけてますね。

ただね、1990年といえば86年から91年2月まで続いたバブル景気真っ只中なわけですよ。
そんなパリピな1990年と、失われた20年からようやく回復してきた小康状態な2015年を比較して『市場規模は3分の2までに縮小した!ジーザス!』と天を仰ぐのは滑稽じゃないですか?

先の市場規模グラフをよく見てみると、ここ数年は緩やかに回復傾向です(資料には載ってないけど2015年はわずかに縮小しています

衰退の原因はシンプルで『バブルの夢から覚めて我に返った』からでしょう。

バブル弾けて収入が減ったらどうします?
無駄なモノを買わないでしょ?
ギロッポンに繰り出さないのに無駄に高いDCブランドの服なんて買って意味あります?
つーか、もうギロッポンとかに繰り出すような年齢じゃないでしょ、埼玉あたりにでも戸建て持って35年ローン組むような世代でしょ。
仕事用スーツ以外に服着るときなんか年に何回あるんですか?
子ども連れで動物園なんかいくときにアルマーニだのコムデギャルソンだの新調して着るんですか?子供の鼻水やらですぐ汚れますよ?
今年はボーナスがカットされるみたいですけど、家のローンの返済は順調なんですか?

と、景気低迷とライフステージの変化によって服への優先順位はどんどん低下してゆくわけです。

しかも、ユニクロやら無印良品やら、そこそこマトモな品質でブランド品より安い商品が出てきたら、もう積極的に高い服買う理由ないですよね。
最近はネット検索したらあり得ないほど安い服もたくさんありますし。

その結果が『20年間で各家計の衣料品購入単価は6割弱』なのでしょう。
ゆとり世代な私の感覚で見た1990年の15兆円は異常値です。
20年かけてまともな地合いになっただけ。

とどのつまり、アパレルは誰にも殺されていません。
単なる老衰です。

時代の流れを顧みずオールドスクールな売上高至上主義という麻薬を捨てられなかった一部の中毒者が勝手に衰弱死しそうになってるだけです。
本書では歴史ある百貨店や大手アパレルメーカーが衰退に至ったプロセスを、服が消費者に届くまでの構造と、その構造に潜む欠陥を挙げて解説しています。

実際、百貨店や大手アパレルメーカーの古き良き時代の企業の決算見てみると、なかなかヒドい成績です。
一方で、新興勢力であるスタートトゥデイ、TOKYOBASE、エニグモ、クルーズなどは売上高では及ばないものの、営業利益率では百貨店、大手アパレルメーカーを圧倒しています。
新興勢力の中でも古参なファーストリテイリングは最近停滞気味です。
ですが、売上高、営業利益率ともに高く、現金だけで約5800億円(その他の流動資産と合算すると1兆円。一方で、全負債合計が約6400億。流動資産だけで全負債を余裕で帳消しできる)とキャッシュリッチです。
金があるので大胆な挑戦・失敗もまだまだできる。
まあ、強いですね。
もちろん、業種や事業領域の関心が違うので単純な比較はできないでしょうが、古参企業の薄利多売体質は下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるという印象で不穏な空気を醸しています。

百貨店や大手アパレル企業は『過去の栄光』とどう向き合うか

大手百貨店必要か?
三陽商会必要か?
オンワード樫山必要か?

と問うてみると、なかったとしても問題ないです。
なぜなら、他のサービスやアパレル企業で満ち足りてるからです。

例えば百貨店

百貨店に行く理由ってなんでしょうか?
特にないです。

休日を費やして実店舗に赴き、気に入る服が見つからなければ、店舗への往復までの時間含めて無駄です。
それに人が多い駅や道を歩くのも苦痛です。
車(タクシー)で向かうという選択肢もありますが、結局気に入る服がなければ徒労になるリスクは変わりませんし、やはりそこまで金と時間をかけて行く価値はないかなと。
また、実店舗の魅力としては店員の審美眼やコーディネート力だったりするでしょうが、正直言って自分より圧倒的に上回ってるな(そもそも上下とか無くて好みの問題だと思いますが…)という実感もありませんので、わざわざこちらから出向くほどでもないなと思ってしまいます。
百貨店で過ごす時間に価値があるといった見方もあるでしょうが、ディズニーランドのようなエンターテインメント感だったり、インスタ映えやフェイスブック用のおすまし投稿といったいわゆるソーシャルマウンティング要素もさほどありません。
入店自体は誰でもできますし、外商カード持ってる人が使えるラウンジみたいなのも「わざわざそれSNSで言うこと?」程度の価値だと思います。
それなりの百貨店愛がなければ行く理由はないですね。

それなりのモノを買うなら基本的にはファーフェッチ(たまにSSENSEとか)のようなECサイトで済みます。
扱ってるブランド数はECに軍配が上がりますし、ファーフェッチにいたっては返品無料です。
百貨店がよほどニッチなアイテムを扱っているなら訪れる価値はあるかもしれませんが、基本的に有名なブランドしかないです。
取り扱いブランドの格が百貨店の威厳を醸しているので仕方ないですよね。
コレクションブランドの取り扱い数もECと比較すると貧弱です。
選ばれたブランドをゆったりとした空間に配置することこそが百貨店の威厳を保つ手法ですので、こればっかりは仕方ないです。
一方、ECは無限の領域(端末のメモリが許す限り)を使ってショーケース化できますからね…

通販の懸念点として、良いと思ったけど実際着てみたらなんか違うという失敗がよくあるかと思います。
服選びについてはほぼ間違わないので、似合うかどうかといった不安はあまりないです。
サイズ感の不安もないです、自分のサイズを計測して基準を知っているからです。
仮に失敗したとしても返品無料ですから失うのは時間だけです。(失う時間も合計してネット通販だったら30分程度ですが、百貨店の場合、30分では収まりません)

こうやって見てみると私は明らかにターゲットではありません。

ただ服に全く興味がないわけではないです。
富裕層のように一度の買い物で100万以上使ったりはできませんが、年間にして数十万程度、月に数着程度を定期的に服を買っています。
雑誌、書籍、EC、ブログなども日々目を通しています。
気になってるブランドの予約会に行ったりもしています。
ファオタからは程遠いニワカクラスですが、標準偏差(?)よりもファッションに興味ある方です。

こういう人間ですから、仮にネットもなくて、なおかつ近場にまともな服屋がなければきっと百貨店にお世話になっていたでしょう。
仮に私がバブル期に多感な時期をむかえていたとしたら、きっと百貨店通いしていたでしょう。
時代が違えばターゲットになっていたわけです。
ですが、百貨店を圧倒的に上回る代替手段が存在しているため、もはや百貨店をあえて選択をするに至らないのです。

百貨店の存在意義を問う必要があるでしょうね。
今の時代だからこそ発揮できる百貨店の価値とは一体何なのか?
これを問い続けないと死ぬのでしょうな…

アパレルサプライチェーン研究会の事例紹介の資料によれば、高島屋はお得意様向けのECサイトを展開してるようですね。
どの程度成果になってるのか気になるところです。
位置付け的にチャレンジャー企業だからでしょうか、高島屋はこの手の試みに関しては早い気がします。

海外の大手百貨店ノードストロームは顧客第一主義を貫いて、デジタル技術を活用してよりアナログな付加価値を提供しているようです。

http://www.adobe.com/jp/information/unite/a/2017/06/01.html

会社の社是を最大に肯定した王道な進化といった感じですね。

例えば大手のアパレル企業

ワールドやら、三陽商会やらが売り出してるブランドのターゲットが不明です。
価値がボヤけてるので、購入意欲が湧くこともないです。

バーバリーの残り滓みたいなブランドじみた何かを例として挙げてみましょうか。
このブラックレーベルクレストブリッジって何の魅力もないじゃないですか、ブリティッシュっぽくてちょっとポップな感じが良いのでしょうか。
そのくせ中途半端に値が張る。
オッサンが着るには幼すぎるし、かといって大学生が着るには高すぎるし、でも大学生が背伸びして買いたくなるようなブランドの権威性もない。
ターゲットが誰なのかよく分からない。
とりあえずバーバリーっぽい何かだったら客はバカだし買うだろうという惰性や悪意すら感じます。
これならH&MやZARAとかで十分です。

逆にTOKYOBASEが展開するステュディオスはターゲットがしっかりしてる。
ガチでオシャレ好きで人とは被りたくない、世界に一つだけの花な大学生がターゲット。
モードの民主化を推し進めたといったら大げさかもしれないが、それくらいのことをやってる。
基本的には、ビームスのやり方をモードで転換してやってる。
ラッドミュージシャンやato、ジョンローレンスサリバンといった有名ドメスティックブランドを扱うセレクトショップで量産型を嫌うような(でも、いきなりヨウジ・ヤマモトとかにはいけない)中途半端に意識高いファッショニスタが好きそうな『程よく有名』で『程よくエッジ』のある『心地よいモードブランド』を集めてる、まずこのキュレーションがとても良い。(ちなみに大学生視点だとビームスは内装とか含めてちょっとオッサンっぽい感じあるね。店員のヒゲ率高いからかな?)
ブランドのトーンが統一されているので、客の中で『とりあえず、ステュディオス行っておけば何か好みのモノがあるだろう』という信頼感が生まれる。

『とりあえず、ステュディオス』で集客した客にステュディオスオリジナルを売るのが黄金ルールでしょうな。
自社商品の方が粗利率高いだろうし。
こう言うと悪徳感あるけど、そのオリジナル商品がちゃんとカッコいい。
特に色味とサイズ感がしっかり今の雰囲気に合わせてきてる。
で、他のsoeやカズユキクマガイといったブランドと比較すれば安い。

流行を真正面から取り入れたオリジナル商品ってわりと当たり前っぽいんだけど、意外と他のアパレルでやってなかったんです。(ハレとかレイジブルーがわりかし近かったけど、デザインがちょっとうるさかったり、やたら細いアイテムが多くて、芯を外してる感じだった)
だから『オリジナル商品=王道、ベーシックなアイテム』って印象だった。
最近になってGUとかが今っぽいアイテムを安価で売るようになったけど、それまでは『オリジナルブランドはこういうもんだ、これが時代に流されないベーシック!ドンっ!(ワンピースの効果音)』って感じで居直り決め込んで流行のニュアンスを取り入れることを否定していた。

ほんとに微妙な違いなんだけど、ちゃんと客の心を掴んでるんだよね。
モードの寄りなオシャレ大学生のファッション選択肢って次の4つだった。

  • 古着(値段はピンキリ)
  • ファストファッション(ユニクロ、GAP、ZARA、H&M、レイジブルー、昔のハレ)
  • ハイブランド(アッパーミドル?ちょっと高い国内ブランドやセカンドライン全般)
  • 超ハイブランド(コレクションブランド)

ここにミドルという少しリッチな第5の選択肢を与えたことが良い。
ちょうどファストファッションとハイブランドの間に相当する。
意外だけど振り返ってみるとなかったんだよね。ミドルな価格層。
まあ、しいて言えばブランドやビンテージ系の古着がミドル層にいたかもね。

ファッションSNSのWEARが広がるタイミングとステュディオスが出てくるタイミングが良かった。
ブランド拡散の一助になっていましたね。
インフルエンサー笑(モードの寄りなオシャレ大学生なんかみんな自己顕示欲のカタマリだからね)と呼ばれるような人が見せたくなるようなアイテムを真面目に作っていたおかげでしょう。
タイミングが良かっただけじゃない。

残念ですが、刺さるモノ作れば売れるんです…

個人的には三陽商会のクレストブリッジは早々に撤退していただいて、ラブレス事業に振り切ってほしいですね…

本書のまとめにも、業績不振なアパレル企業もこれからの身の振り方次第ではチャンスと考えることができるよね的なこと書いてたけど、社会人1年目でも知ってるような至極当たり前のこと言ってるだけなんですよ笑
「お前らに言われなくてもわかってるわ!」って感じで百貨店やアパレル企業としても痛感してると思います。

問題の渦中にいると見えなかったり、目の前の売上にとらわれて動けなかったりするのでしょうか。
まあ、非上場企業で独裁的な経営体制ならエイっ、で色々やれるかもしれないけど、上場してたり、それなりに規模のデカイ組織だと社内政治のシガラミとか云々あるんでしょうな…

自社の資産×◯◯をいかに掘り当てるか

百貨店も、大手アパレル企業もEC事業が好調なんですよね。
とはいえ、単純にECやってても既にZOZOやらファーフェッチやらYOOXがあるわけなので、どうやって住み分けてゆくか、差別化していくかってところがないと無駄な価格競争になったりして、結果頭打ちになるでしょう。

既存のECを更に成長する仕掛けや、全く違う展開の種を蒔いたりする必要があります。
ECだけでなく既に抱えてる資産も使い道ありそうですよね、一等地に構える箱物をもっと活用できるような気がします。
百貨店だったら服に固執せずに手頃な単価で裾野広く購入してもらえる食品や雑貨に資源を集中させて百貨店を辞めちゃうってのも面白いかもしれないです。

ま、クソみたいなアイデア考えるだけなら誰でもできますわな。

今後の百貨店、大手アパレル企業の取り組みには注視していきたいです。
やり方次第では結構大化けしそう。

 - ファッション

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